例えば堤防で釣りをしようとした時は、投げ釣り、フカセ釣り、サビキ釣り、落とし込み釣り、ショアジギング、エギング、アジング、メバリング、カゴ投げ釣りなど、ありとあらゆる釣りができます。そんな中で、「本命」と「外道」を分ける「差」とは一体何なのでしょうか?
釣りの一番の醍醐味は、フッキングからランディングに至るまでの一連のやり取り、すなわち「ファイト」です。ロッドがギュンギュン絞られ、ドラグがジリジリ鳴り続ける一進一退の攻防がアングラーを虜にします。しかし、フッキングしたらすぐに諦めて、力なく上がってくる、抵抗してくれない魚は楽しくありません。人間の勝手な都合ですが。
これも人間の一方的な理由なんですが、食べても美味しくない魚は外道認定されやすいですね。魚の食味は、棲息している場所、或いは季節により、本当に同一の魚かと思うほど変わる場合があります。一般的に不味いとされている魚でも、季節や釣れた場所により、非常に美味になるケースはたくさんあります。代表的な魚はボラでしょうか? 夏の河川域で釣れるものは不味いと言われますが、冬の外洋で漁獲された個体は大変な美味とされています。また、フカセ釣りでクロダイを狙っていると良くかかるタカノハダイなども、季節により味が全く異なる魚です。
面白いのは、堤防や地磯の釣りが盛んなポイントで、釣り人が撒く配合コマセが魚たちの主食となっているような場所では、カロリー過多で脂の乗りが良いため、通年味が落ちないと言われています。また、一般的には臭いと言われている魚でも、現場での血抜き及び神経締めを適切に行うことで、美味しくいただける魚もいます。
成長しても大きくならない小魚も外道扱いの代表格です。ネンブツダイ、クロホシイシモチなどのテンジクダイ科の魚、キヌバリやスジハゼなど、マハゼを除くハゼ科の魚などが代表的ですが、堤防は稚魚や幼魚のゆりかごとしての役目もあるため、どうしても小さい魚が集まりがちです。例えば手のひらサイズにも満たないメジナやチャリコ(マダイの幼魚)、チンチン(クロダイの幼魚)、シマダイ(イシダイの幼魚)などです。
これら、食べるに値しない魚は優しくリリースし、大きく成長した暁にはまた遊んでもらいましょう。
毒魚には気をつけましょう。釣りをするなら絶対に頭に入れておかなければならない知識です。身に毒があるもの、内臓に毒があるもの、皮膚に毒があるもの、ヒレに毒針を持っているものなど、さまざまな毒魚がいます。これらは、自らの身を外敵から守るために、進化の過程で手に入れた武装です。加熱したからといってなくなるようなものではありませんので、これらも釣れてしまったら、手袋で手を保護した上で慎重に針を外してリリースしましょう。
昔の釣りの指南本などでは、毒魚が釣れた場合は「ハリスごと切って海に捨てましょう」などと書かれているものが多くありましたが、今は時代が変わりました。正しくリリースしてあげましょう。
以上の理由により釣り師から「外道」と呼ばれ、ぞんざいに扱われてしまう可哀想な魚たちを紹介して行きます。今回は、ショアで、特に堤防釣りのシーンで良くかかる魚を中心にピックアップして行きます。
タカノハダイは、クロダイやメジナをフカセ釣りで狙っていると良く掛かる魚です。それなりに見栄えのする個体が多く、クロダイが掛かったかと喜んでいて、この姿が見えるとため息をついてしまう魚です。理由は独特の臭みがある個体が多いためです。春先から夏の終わりまで、特に臭みの強いものが多いです。しかし、冬場に釣れる個体で、適切に血抜きが行われたものについては大変美味です。我が家では冬場のタカノハダイはいつも刺身で美味しくいただいています。
ベラの類は身が水っぽく、食味も食感も今ひとつの種類が多いですが、このササノハベラはそんな中でも味は悪くないほうだと思います。大型の個体が釣れたときは食べてみても良いでしょう。特に身の臭みなどはありません。
ニシキベラは、その毒々しいほどに派手な体色で、観賞魚としての需要はあるかも知れませんが、大きく成長することはなく、15cm程度にしかなりません。可食部は非常に少なく、食べても美味しくありません。優しくリリースしてあげましょう。
キュウセンは、30cm程度の大きさまで育つ、投げ釣りやフカセ釣りではおなじみのゲストで、ベラ類の中では最も美味です。身質が水っぽいのは他のベラ類と変わりませんが、癖のない白身が、関西では高級魚とされています。煮付けて食べると非常に美味しい魚です。
アナハゼは、ハゼと名前がついていますがハゼの仲間ではなく、カジカの仲間です。岩礁地帯やテトラポッドの中に隠れていることが多く、フカセ釣りや穴釣りでよく釣れます。最大の特徴は「青い身」で、口の中も鮮やかなミントブルーです。さばくと身も青く透き通り、インパクト絶大です。非常に美味な魚ですが、大きくならないため、刺身でいただくのは手間ばかりかかりますので、唐揚げがおすすめです。
漢字で「柊」と書く、魚偏がつかない魚として知られています。内湾や河口の汽水域に多く棲息し、外洋には少ない魚です。投げ釣りしていてもサビキ釣りしていてもヒイラギラッシュに辟易しているアングラーは少なくないでしょう。体表から出す大量の粘液が嫌われる原因ですが、個人的には、最高に旨い魚であり、「外道」などとは思ったことありません。粘液はキチンと塩で洗えば簡単に取れます。また、小さいながらも3枚におろし、刺身でいただくと、ほのかな甘みが最高です。寿司ネタにしても最高です。どんなに面倒でも、生食したい魚です。大量に釣れた時は、素揚げにして、スライス玉ねぎと一緒に甘酢に漬け込み、南蛮漬けにすると保存が効きます。
ウリ坊は、成魚の「イサキ」は、刺身ヨシ、焼物ヨシの高級魚で、最高に旨い魚として、オフショア船釣りの人気ターゲットになっていますが、幼魚時代は沿岸の岩礁地帯で過ごします。夏から秋口にかけて、メジナ釣りのコマセ目当てで大量に寄ってくる魚です。10cm未満の小魚ですが、果敢に食いついてきます。あまりに大量に集まってきますので、閉口してしまいますが、ひたすらコマセを巻き続け、彼らよりサイズの大きな魚を寄せるしかありません。自分たちよりサイズの大きな魚が近寄ってくると一目散に散ってしまいます。
イシダイの幼魚であるシマダイは、地域によってはサンバソウとも呼ばれます。これもコマセに寄ってくるやっかいな小魚ですが、体長10cm程度の小魚でもイッチョマエにファイトしてくれますので、釣り味の点だけで言えば悪くありません。しかし、歯が鋭く、仕掛けを切られやすいのと、食べようとしても可食部が少ないので、引き味を堪能したら優しくリリースしてあげましょう。
ハオコゼは、見た目がカサゴとよく似ているため、特に初心者には注意が必要な毒魚です。背びれなな毒針を持っており、刺されると大変な痛みが数日続きます。体調15cmに満たない小魚ですが、非常に数が多く、フカセ釣りでも投げ釣りでもサビキ釣りでもよく掛かりますので注意が必要な魚です。無理に食べる魚ではありませんが、唐揚げは悪くありません。
ゴンズイは、ナマズ目の魚で、自らが出すフェロモンが、他のゴンズイを集め、密集して身を護る「ゴンズイ玉」がよく知られています。夜行性のため夜釣りでたくさん釣れますが、胸鰭と背びれに毒針を持っているため、注意が必要です。とびきり旨い魚ではありませんが、ナマズの仲間のため、蒲焼や煮魚などにして好んで食べる地域もあります。ゴンズイの毒はタンパク毒のため、加熱により効力が消失することが知られています。
アカメフグは、数は多くありませんが、非常に美味なフグとして知られていますが、他のフグ類同様、皮にも内蔵にも毒がありますので、素人の調理は禁じられています。フッキングした際にずっしりと重みを感じるため興奮しますが、諦めが早く、すぐに力なく上がってくるのでがっかりします。
ハコフグは少しレア度が高いかも知れませんが、フカセ釣りをやっていると稀にかかります。フグ科の魚ではなく、ハコフグ科の魚なので、肉には毒がなく、内蔵を抜いた腹の中に味噌やネギ、エノキタケなどを詰めて焼いた味噌焼きは長崎県の郷土料理になっています。
身は無毒ですが、体表の粘液には毒がありますので、他の魚と一緒にバケツなどに入れておくと、他の魚が死んでしまいますので、絶対に一緒にしてはいけません。食べないのであれば速やかにリリースしてあげましょう。
シマイサキは、イサキとは関係のない、シマイサキ科の魚です。内湾の浅場や、河口付近の汽水域を好む魚です。浮袋を膨らましてギーギー鳴くことで知られています。釣れる場所によっては臭みがありますが、さばいた刺身を氷水に晒したアライをおろしポン酢でいただくのは絶品です。
シマイサキ科の類似の魚でコトヒキがいますが、食味はシマイサキのほうが美味です。
めったに釣れませんが、サビキ仕掛けに掛かります。なかなか引き味が楽しく、釣れたら嬉しいゲストです。
クロウシノシタは、真夏のサーフで砂底にへばりついている魚です。数は多くありませんが、神奈川県の江ノ島周辺では、シロギスの投げ釣りの定番ゲストとして、釣り師に喜ばれる魚です。ヨーロッパでは、ムニエル用の魚として需要な水産資源となっています。余談ですが、私がイタリアに旅行に行ったとき、ベニスのレストランでクロウシノシタのムニエルが出てきた際、店員が日本語で「シタビラメェ〜、オイシ〜ヨォ!」と言われたことがあります。
ボラもサビキ仕掛けやフカセ仕掛けに掛かってきますが、細身の磯竿に掛かってしまうとひとたまりもありません。大暴れしてくれるのは楽しいのですが、仕掛けをメチャクチャにされる上、ロッドを折られてしまうこともあります。ショアで釣れるボラはほとんどが臭くて食べられたものではありませんが、真冬に釣れるものは臭みもなく、脂が乗り切って絶品の個体が多いです。
外洋で漁獲されるものは通年美味ですが、特に冬場の「寒ボラ」は、「寒ブリ」、「寒グレ」と並ぶ、冬の旨い魚の代表格です。
投げ釣りの定番ゲストであるイイダコは、正直、本命より嬉しいこともある外道です。甘辛く煮たイイダコは酒の肴に最高です。しかし、数を稼ぐのは至難の業です。1〜2匹ではどうにもならないのですが、10匹くらい釣れれば家族が喜ぶおかずになります。
なかなかイイダコを専門に狙うことはしませんが、堤防からの投げ釣りをしていると必ず1匹は釣れるゲストです。イイダコは、家族が大変喜んでくれるゲストです。
最後はコイツ、シャコです。泥質の場所でちょい投げでハゼを狙っていたり、堤防からフルキャストでイシモチやカレイを狙っていると良く掛かるゲストです。鎌のような大きな腕にパンチをされると怪我をするほど力が強いので注意が必要です。塩茹でにすると大変美味です。殻を外すのは大変で、身の両サイドをハサミで縦に切り殻をむしります。青森県では、花見の際、大量の茹でシャコを食べながら、お酒を飲みながら桜を愛でる習慣があります。私はシャコが釣れるとかなり喜びます。
いかがでしたでしょうか? ここで紹介した魚だけでなく、釣り師が「外道」と呼ぶ魚はたくさんいます。投げ釣りならメゴチ(ネズッポ、トビヌメリ、ヤリヌメリの総称)の類、フカセ釣りであれば、誤爆で掛かる青物(マルソウダ、ワカシ、サゴシ、メッキなど)や、アイゴやウツボなども「外道」なんでしょう。しかし、それは何度も言うとおり、釣り師が勝手に呼んでいるだけで、「外道」という魚は存在しないのです。毒魚のように、どうしょうもない魚は別として、ほとんどの魚は食べることができます。外部からの情報だけで勝手に外道と決めつけず、「来る者は拒まず」の気持ちで様々な魚と遊んでもらう、そんな謙虚な気持ちで釣りができると良いですね! こうして、写真を眺めていると、どれもかわいいなぁという気持ちになりませんか!?
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