シマノ・クイックレスポンスシリーズの最高峰モデル、19ヴァンキッシュ C3000XGは前モデルよりもさらに軽く、さらに強く、さらに遠くへ!
「完全征服する」という意味を持つ、ヴァンキッシュをシマノの2番手リールとか言ってる人はいませんか?(参考:シマノリールのモデル別グレード表) 確かに、価格帯で言ったらそうかも知れません。しかし、ステラとヴァンキッシュは、設計思想、技術プラットフォームがそもそも違うのです。ステラは、ツインパワー、ストラディック、アルテグラの4モデルで「コアソリッドシリーズ」を形成しています。対して、ヴァンキッシュは、その他多くのスピニングリールの設計思想として採用されている、「クイックレスポンスシリーズ」の頂点に君臨するモデルです。今回は、そんな設計思想の違いなどにも触れながら、ヴァンキッシュ C3000-XGを紹介して行きます。
コアソリッド? クイックレスポンス?
シマノのスピニングリールには、設計のキーコンセプトの違いによって、「コアソリッドシリーズ」と「クイックレスポンスシリーズ」に分けられています。「コアソリッドシリーズ」とは、「ロングリトリーブ」を長時間快適に行えるよう、主にローターの慣性モーメントを利用し、アングラーのパワー入力をアシストするような設計を施されたリールで、遠投を多く行うショアジギングなどに向いた設計となっているシリーズです。対して「クイックレスポンスシリーズ」は、慣性モーメントを可能な限り排除し、軽い力でローターが回り始め、さらに、ハンドルを回す手を止めればすぐさま「ピタッ」と止まるよう、軽量化とアングラーの意思に対する応答性を重視したリール設計となっているシリーズで。精緻なルアーアクションを必要とするワインド釣りや近距離のバス、トラウト、シーバスゲームなどに向いたリールです。少し乱暴な言い方をすると、「剛性のコアソリッド」に対し、「軽さのクイックレスポンス」といったところでしょうか? ヴァンキッシュは、このクイックレスポンスシリーズの最高峰リールとして君臨している製品となっています。
素材、軽さ、強さ、デザイン、すべてにおいて異次元のレベルな会心の逸品。
メーカーを問わず、ハイエンドクラスのスピニングリールには、ミドルクラスやエントリークラスのそれとは違い、開発にあたってコストの制約がありません(全くないわけではありませんが)。完成品の「あるべき姿」を描き、その「あるべき姿」を実現するために、素材をどうするか? 機構はどうするか? 防水・防錆はどうするか? 加工・組立はどうするか? など、膨大な数の課題をひとつひとつ解決していきます。そこには「妥協」はありません。素材、軽さ、強さ、デザイン性、すべてにおいて、妥協の入り込む余地がありません。従って、ハイエンド機というものは、そのメーカーが出す「解」であると言っても過言ではありません。シマノのスピニングリールの場合、シマノブランド全体の「解」としてはステラがそれに当たるのですが、シマノの今後の主流である「クイックレスポンスシリーズ」としての「解」は、ヴァンキッシュが担っています。ステラが今後、味付けを変えて、クイックレスポンスシリーズとして生まれ変わることは個人的にはないと思っています。ステラはシマノのレガシーとして、今後もコアソリッドシリーズの最高峰リールであり続けるでしょう。
ヴァンキッシュ C3000XG の基本スペック
ヴァンキッシュ C3000XGのスペックは、ギア比6.4、最大巻き上げ長さ94cmのエキストラハイギア仕様、ドラグ釣力最大9kg、ラインキャパPE1号-400m、フロロカーボン/ナイロン4号-100m、自重170gとなっています。C3000XGは、2500番のボディに3000番のスプールを装着したコンパクトモデルではありますが、それにしても170gです。前モデルの16ヴァンキッシュ比で-15gの軽量化を実現しています。これだけ軽いリールには、それなりのロッドを合わせてあげないと申し訳ない気分になります。
170gを実現するために
ヴァンキッシュ C3000XG が、自重170gを実現するために、軽量で強靭な素材を厳選し、パーツごとに1グラムでも軽量化にこだわり、小さな成果を積み重ね、製品自重170gを叩き出しています。CI4+(シマノが開発した炭素強化樹脂)製のマグナムライトローターは、左右非対称形状及びローター肉厚の最適配置で慣性モーメントを前モデルより約14%低減すると同時に、ラインローラーの軽量化とべイルのチタン化でローター全体の軽量化を図りました(18ステラのローター材質はマグネシウム合金とアルミ材です)。また、ハンドルもCI4+製ねじ込み式ハンドルで、ねじ込む軸の部分をチタン化し、3グラムの軽量化に成功しています。ボディ材質は18ステラも19ヴァンキッシュもマグネシウム合金製です。現時点では、最も軽さと剛性を兼ね備え、加工性も良い(ということは、複雑な形状でもワンピースで作ることができる)素材でしょう。
ギア剛性が16ヴァンキッシュの倍くらい上がっている!
19ヴァンキッシュの剛性に関する部分について、特筆すべきところは、超々ジュラルミンの冷間鍛造で作るドライブギア「HAGANEギア」が、18ステラと同じものが採用されたことです。これにより、19ヴァンキッシュのドライブギアは、16ヴァンキッシュのそれと比較して強度が約2倍に上がっています(18ステラのドライブギアはさらに表面に特殊な処理を加え、さらに耐久性が高いものを使用)。この新しいHAGANEギアに加えて、マイクロモジュールギアⅡ、サイレントドライブといった、シマノのハイエンドラインのスピニングリールにのみ採用されているテクノロジー群が、シマノのハイエンドライン独特のヌルっとした巻き心地を実現しています。
残念ながらインフィニティドライブは非採用
ただし、ヴァンキッシュにはステラにのみ採用されている「インフィニティドライブ」機構がありません。これは、ピニオンギアの内面を貫通するメインシャフトが、ピニオンギア内壁に接触しないよう、ピニオンギア内壁とメインシャフトの間に極薄の摺動ブッシュを噛ませ、さらにピニオンギア内壁にも摺動処理を施し、メインシャフトの摩擦を実質ゼロにし、さらに回転トルクを30%低減した技術で、アブガルシアの「フリクションフリー」に相当する技術です。ステラ以外にも是非とも採用してもらいたい技術です。
ヴァンキッシュ C3000XGが活躍するシーンとは?
ヴァンキッシュ C3000XGは、シマノによれば、シーンを選ばないバーサタイル機として紹介していますが、最大巻き長さ94cmを活かすのであれば、中型のシーバスゲームが良いと思います。距離のあるストラクチャーや橋桁周辺を正確にキャストし、シビアなアクションでフローティングミノーやホッパーを操るのに向いていると思います。スプールが19ヴァンキッシュからロングストロークタイプになり、飛距離が若干伸びていることに加え、16モデルより15g軽くなっていることで操作性も向上しています。淡水の本流トラウトゲームでスプーンを自由自在に操るシーンでも、ヴァンキッシュの軽さと低慣性モーメントは、アングラーの意思を忠実にルアーに伝えてくれるはずです。
ヴァンキッシュC3000XGは、金額以上の満足を得ることができる逸品!
個人的には、19ヴァンキッシュが16ヴァンキッシュと比較して最も良くなったのはデザインだと思います。デザインは好みの問題ですので、ここで論じることは意味を持たないことではありますが、実勢価格でも5万円近く投じる者としては、所有する喜びも必要です。デザインが自分の嗜好にハマるか否かは、その「所有する喜び」を高める重要なファクターであり、19ヴァンキッシュの鈍く光るメタル感、スプールのストローク方向に刻まれた「Vanquish」のロゴなど、所有欲をくすぐる仕掛けが随所に散りばめられています。