フカセ釣りにおけるハリスの重要性を解説! ハリスの劣化は即釣果ダウンにつながります!
作成:2023.09.20更新:2023.09.20
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フカセ釣りをしていて、狙い通りのポイントに仕掛けを送り込むことができて、予想通りのアタリが出て、フッキングがバッチリ決まり、ファイトを堪能、一進一退の攻防ののち、ついに本命が目の前に浮いてきた。予想より型が良く、ランディングネットを繰り出し、顔を半分水面から出して空気を吸わせ、おとなしくなった本命魚をネットに収めようと、ロッドをひと煽りした瞬間、「ブチッ!!」と、絶望的な音とともに「ファッ!」とロッドのしなる力が抜け、銀色に輝く魚体は命拾いして一目散に逃亡・・・。こんな経験、フカセ師なら一度や二度ではないと思います。
フックオフ、高切れ、ロッドが伸されてしまった、リールのドラグ設定の不適合などなど、いろいろと原因はあると思いますが、一番多いのが「ハリス切れ」ではないかと思います。ハリスの材質や太さがあっていなかったのかもしれません。ハリスが長すぎた(短すぎた)のかもしれません。ハリスと針の締結がマズかったのかもしれません。はたまた、ハリスが傷ついていて強度が低下していたのかもしれません。
そんな悲劇を最小限にするため、正しいハリス選びをし、コンディションチェックをこまめに行わなければなりません。今回は「ハリス」について、徹底的に解説していきます。
ハリスの種類について
フカセ釣りに限った話ではありませんが、現代の釣りのシーンにおけるハリスの材質については、大きく分けて、フロロカーボンとナイロンの2種類があります。ハリスとしての用途で圧倒的に使用量が多いのはフロロカーボンで、そのシェアは99%以上と言っても良いでしょう。しかし、フカセ釣りの場合は、状況によっては積極的にナイロンハリスを使うこともあります(私はナイロンハリスはほとんど使いませんが)。後ほど説明します。
フロロカーボンハリス、ナイロンハリスについて、それぞれどんな特徴があるのか説明します。
フロロカーボンハリス
フロロカーボンは、正式名称を「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」と呼ばれる、高純度の熱可塑性(熱で溶け、冷えると固まる性質)のフッ素重合体です。この物質は、高強度、高耐候性、高耐薬品性、高耐熱性、低伸度、低吸水性という特徴を持つため、釣り糸や、ウクレレ・ギター・バイオリンなどの弦、半導体製造装置の純水送水路などに使用されています。ポリフッ化ビニリデンは非常に高価な樹脂のため、一般的な用途としては、釣り糸の用途くらいしか知られていないかもしれませんが、耐候性の良さを利用し、屋根材など建築部材にも利用されています。
フカセ釣りのシーンにおいては、比重の高さ、低伸度、高強度の特性を利用し、ハリスとして使われる他、PEラインを使用するジギングや投げ釣りのシーンにおいては、フロロカーボンの根ズレに対する耐性の強さから、耐摩擦性が極端に低いPEラインのショックリーダーとして多用されます。穴釣りのシーンでは、道糸・ハリスともにフロロカーボンを使うケースもあります。
ナイロンハリス
ナイロンは、正式名称をポリアミド(PA)樹脂と言います。アミド結合により多数のモノマーが結合してできた熱可塑性樹脂で、分子構造の違いにより、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66など、様々なタイプが製造されています。1935年に米国デュポン社が初めて合成に成功したという、歴史は古い合成樹脂なのですが、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐衝撃性、摺動製、耐摩耗性などに優れるため、現在でもアパレル、自動車、電気電子、食品、釣り糸など、様々な用途で利用されています。
釣りのシーンでは、道糸に使われるケースがほとんどです。締結強度がフロロカーボンより高く、しなやかで適度な伸びがあり、非常に使い勝手が高く、さらに安価と来ています。PEラインが台頭する前は、釣り糸と言えばナイロンラインのことでした。フカセ釣りにおいては、今でも道糸はナイロンラインが定番です。最近では、ナイロンラインの唯一の弱点と言って良い、吸水劣化による強度低下を軽減するためにラインの表面に特殊なコーティングを施した高級なナイロンラインも多く販売されています。
ハリスのサイズについて
フカセ釣りのトレンドとして、「道糸もハリスも細いラインで大物を仕留めるのが美しい」という風潮があります。各メーカーが直線強度の高いラインを製造する技術が向上し、細い仕掛けでも闘えるようになっているのは事実ですが、あまりに細い道糸・ハリスで挑んで獲物を取りこぼすようでは意味がありません。せっかく自分の釣り座付近にターゲットを寄せたのに、フックオフは群れを散らしてしまうことにもなりかねません。
細いハリスは水中での挙動が自然で、魚から見えづらいため、太いハリスよりも釣りやすいという理論もありますが、競技でもない限り、そこまで追い込まなくても釣果は大して変わらないというのが私の主張です。
ロッドのしなりを最大限利用し、リールによる攻防、すなわち、攻めるところ、退くところ、その場で仕掛けを留めて我慢する局面などを確実に捉え、ランディングへ持ち込む高い技術を持っている人以外は、極端に細いハリスを使う必要はないでしょう。
余談ですが、私が釣りを始めた昭和50年代(小学生でした)、当時、フロロカーボンラインもあることはありましたが(フロロカーボンラインの初登場は昭和47年)、当時は小学生の小遣いではとても買えない高価なものでしたので、ハリスはすべからくナイロンハリスを使っていました。当時の子供向け釣り指南本によると、道糸とハリスの号数は「2段階」差をつけると書かれていました。つまり、道糸がナイロン3号ならハリスはナイロン1号、道糸が2号ならハリスは0.8号、道糸が1号ならハリスは0.6号といった具合です。これは、当時は根掛かりなどのトラブルがあった時に無理なくハリスを切れるように(最悪でも道糸は温存できるように)という狙いがありました。現代でも生きているセオリーかも知れませんが、今は道糸もハリスも細いものでも強度が高くなっていますので、高切れ防止のためという意味は薄れ、仕掛けのバランスを重視し、道糸とハリスの号数の差を小さくするケースが増えています。
クロダイ釣りのハリス選び
地磯、堤防からのフカセ釣りのメインターゲット、クロダイ釣りのハリス選びについて説明します。クロダイはボトムを狙う釣りであり、比重の高いフロロカーボンハリスを選びます。号数は1.5号を中心に、1.2号、1.75号を用意しておけば良いでしょう。50cmを超える大物狙いでも、1.75号で対応可能です。心配なら2号を使っても全く問題はありません。警戒心が緩む夜釣りの場合は、太いハリス、2.5号でも3号でも良いでしょう。太いハリスを使うときは、針への結びがやりづらくなりますので、しっかりと締め込みを行わないと強度が出ない可能性がありますので注意しましょう。
私はクロダイ狙いの時は、チヌ針2号にフロロカーボン1.5号をスターティングラインアップにして、状況に応じて針を3号に上げればハリスを1.75号、2号を使うかどうかと言ったところです。
メジナ釣りのハリス選び
メジナ釣りのハリス選びについては、クロダイ狙いの時よりもバリエーションを多く持っていた方が良いでしょう。理由は、地磯のクロダイはいつもだいたいボトムから中層までのレンジに棲息していて、浮いてくるケースはあまり多くないからです。サーフや堤防、河川のクロダイはトップ付近を泳いでいることもありますが、磯では稀です。そのため、ハリスはボトム付近へ素早く餌を送り込むことができる、高比重のフロロカーボンを使うことがほとんどなのですが、メジナは基本、よほど水温が低く活性が低い場合を除いて、軽比重のコマセを撒いて、ボトム付近の良型のメジナを中層から表層付近に浮かせて釣るメソッドです。
その日の時間帯、水温、光量、コマセの効き具合、餌盗りの多寡など、様々な条件によって、メジナが浮いてくる、浮いて来ないがあり、どのレンジで食ってくるかわかりません。そのため、仕掛けを早めに沈めたり、ゆっくり沈めたり、常に探りながらチューニングを続けなければなりません。
仮にタナがバッチリあっていたとしても、餌の挙動がコマセの挙動と同期していないと違和感を感じて食って来ないということもあります。小型のメジナ狙いではそこまでナーバスになることはありませんが、大型を狙う場合はコマセの沈み方に合わせてハリスの号数を変えたり、比重を変えたり調整しなければなりません。
ここで出てくるのが「ナイロンハリス」です。フロロカーボンハリスを使い、ジンタンもガン玉も打たない軽い仕掛けを流していても、それでもエサの沈みが早くて食って来ないという、完全にメジナが低活性モードになっている場合(主に冬季のメジナ釣りに多い)は、比重の軽いナイロンハリスに変更し、ツケ餌をじっくり見せながらゆっくり沈ませることが必要になります。また、ナイロンハリスはフロロカーボンハリスより風合いが柔らかく、水中での挙動も柔らかいため、活性の低いメジナが食い込みやすいというメリットもあります。
メジナ釣りの場合は、フロロカーボン1.2号、1.5号、1,75号、2号、2.25号に加え、ナイロン1号、1.5号、2号を持っていれば安心です。私はメジナ狙いの時は、グレ針5号にフロロカーボンハリスの1.5号からスタートしますが、釣れてくるメジナのサイズに合わせ、針のグレ針4号に落とせばハリスも1.2号に落としたり、逆にグレ針6号に上げればハリスは1.75号、グレ針7号に上げればハリスは2号に上げます。一応、グレ針は8号まで、ハリスはフロロカーボン2.25号まで準備していますが、グレ針8号、2.25号ハリスはほとんど使いません。ナイロンハリスは1号、1.5号を持っていますが、私のホームグラウンドでは使う場面が全くありません。
魚はハリスが見えるのか?
Amazon:川村軍蔵・著 魚の行動習性を利用する釣り入門
ちょっと脱線しますが、魚の生態については、現在においても謎が多く、数多の研究者がその解明のため、日夜研究に励んでいます。釣具の開発の分野においては、大学や釣具メーカー、国や地方自治体が共同で研究する、いわゆる「産学官連携」事業が進められています。産学官連携事業の有名な研究成果があのクロマグロの完全養殖に成功した「近大マグロ」ではないでしょうか? 近畿大学水産研究所が1970年に始めた研究が、32年の歳月をかけ、2002年にクロマグロの人工ふ化に成功、その後、岡山理科大学、豊田通商、文科省、和歌山県などの共同事業者が手分けして、マグロの産卵、人工ふ化、稚魚の育成、幼魚の飼育、成魚の販売網の構築、海外への販路拡大までを手掛けた大事業です。
そんな魚の生態研究の中で、「魚はハリスが見えるのか?」「魚は人を見分けることができるのか?」など、魚の行動に関する非常に興味深い研究をしている研究者がいます。鹿児島大学名誉教授の水産学博士・川村軍蔵氏(魚類行動生理学・感覚生理学)です。氏の研究成果をまとめた著作「魚の行動習性を利用する釣り入門(ブルーバックス新書・2014年)」には、釣りに役立つ内容がたくさん書かれています。件の「魚にハリスは見えるのか?」については「見える」と結論づけられています。人間でいう「近視」ではありますが、20cm程度の距離であれば0.1号のナイロンラインも認識できるそうです。色については認識できないようですが、白黒の階調で色を識別できるそうです。ただしそれをハリスであるということを認識したとしても、ハリスの先についているツケ餌を避ける行動をとることよりも、ハリスに触れずに餌だけをうまく盗ることの方が多いようです。
この本は「釣り入門」と書いてありながら、テイストは学術書に近く、釣りのHOW TO本ではありません。内容も素人には難しいものが多いのですが、わかりやすい文体で書かれています。興味がある方は是非読んでみることをおすすめします。新書版の他、アマゾンや楽天の電子書籍でも入手可能です。
ハリスの状態は毎投チェックすべし!
ハリスの選定はこれでバッチリですね! 一流メーカーのハイエンドクラスのハリスもたくさん揃えました。しかし、そこで満足してしまっては、ランディング直前の無念のラインブレイクはなくなりません。極端な言い方をすると、「一投ごとにハリスを親指と人差し指で軽く摘み、摘んだままハリス全体に滑らせ、ささくれや傷の有無を確認する」ことが必要です。指を滑らせて引っかかったところがささくれです。また、透明度を目視で確認します。ささくれていなくても、傷がたくさん入ってしまったラインは、光が乱反射して、透明の部分が白くなります。こういうハリスも強度が著しく低下していますので、白く見える部分もすべて切って捨ててしまいましょう。
どんなに高いハリスを使っていたからと言っても、少しでも傷がついたハリスは直ちに切り捨てなければなりません。魚と直接コンタクトしているハリスは、釣りをしている間は惜しげもなく交換し、最高の状態を維持し続けなければなりません。間違っても、魚が齧り、チモトが縮れた状態のハリスなんかそのまま使い続けてはいけません。
少しでも傷んだハリスは惜しげもなく切り捨てよ!
フカセ釣りの場合、ハリスの長さは3m程度取るケースが多いと思います。ハリスを長くとるのは、水の中でツケ餌を自然に漂わせなければならないからです。ハリスの傷んでいる場所が限定的であれば、その傷んでいる箇所から下を切り捨てて針を結び直しますが、短くなってしまったハリスでは水中で自然にツケ餌を流すことはできなくなりますので、ハリス全交換をおすすめします。一日フカセ釣りを行えば、最低でも15m~18mはハリスを消費するはずです。ここだけは惜しんではいけません。
ハリスは常にメンテし、取りこぼしを撲滅しよう!
いかがでしたでしょうか? 少し脱線気味な記事になってしまいましたが、釣りにおけるハリスの重要性がお分かりいただけたのではないかと思います。大事なことは、釣りをしていると、投入するたびに仕掛けは劣化しているということを常に意識し、ハリスや道糸、針やウキの状態に気を配り、少しでも異常を見つけたら直ちに処置をするという心構えを持つことです。
ハリスはどんなに丁寧に扱っても傷つきなどの劣化は避けることはできません。高いものを揃えて長持ちさせることより、安価なハリスを潤沢に交換しながら、いつも良い状態のハリスを維持する事の方が、最終的には良い結果につながるはずです。是非意識して見てください!