「安全第一」という言葉があります。米国の製鉄会社(USスチール)が掲げたスローガンです。1900年代初頭までは、モノづくり最優先ということで、「生産第一」、「品質第二」、「安全第三」と言われていましたが、度重なる労働災害に、人命の軽視と批判され頭を悩ませていた折、1930年代になって「安全第一」、「品質第二」、「生産第三」とスローガンを改めたものが今日に至ったと言われています。日本においては「安全第一」が特に優先され、すべての労働における最優先事項として定着しています。
釣りというアクティビティは、海でも川でも湖でも池でも沼でも、はたまた釣りをするために整備された釣り堀であったとしても、必ず危険が伴います。中でも磯釣りは特に危険度が高いと言っても過言ではありません。磯には足場の良い場所などは存在しません。磯釣りは非常に多くの荷物を持ってポイントまで歩かなくてはなりません。朝間詰めを狙う場合は、夜明け前の真っ暗な磯を歩かなくてはならず、非常に危険です。
ただでさえ視界が悪い岩礁地帯を歩いてポイントにたどり着くには、本当にたくさんの危険をクリアしなければなりません。足を乗せた瞬間、苔で滑って派手に転倒したり、硬いと思っていた岩が脆く割れて崩れて転倒したり、穴に気づかず躓いて転倒したり、タイドプールを飛び越えようとして失敗したり、与太波を被ってしまったり、枚挙に暇がありません。考えられるリスクをひとつでも多く潰しておくことが大変重要です。
しかし、どんなに危険を認識してたとしても、いざ現地で釣りを開始してしまうと、爆釣で興奮してしまったり、逆に全く釣れなくてイライラしてしまったりして、理性的な行動がとれなくなってしまう生き物が人間です。自分を律し、「転ばぬ先の杖」、「石橋を叩いて渡る」、「君子危うきに近寄らず」が徹底できるか否かが、安全に磯釣りを楽しむためのキーワードになります。
磯で転倒することは、高確率で大きな切創を伴います。ひとたび転んで手を突こうものなら、掌をザックリと切ってしまい、釣りどころではなくなってしまいます。真夏でも半袖、半ズボン、サンダル履きは厳禁、そして手袋必須です。
磯を歩くには、極力荷物を厳選し、不要なものはあまり持ち歩かないことをおすすめします。重さを軽減することはもちろん重要ですが、磯歩きの大きな足枷となってしまうのは重さよりも体積です。体積が増えてしまうと、風にあおられてまともに歩けなくなります。知恵を絞り、できるだけ体積を小さくする工夫が求められます。自分がその日に行う釣りを決め、その釣りを行うために必要な道具以外は持ち歩かない、仮に違う釣りを行うにしても、ロッドとリールを代えずにできる釣りを行うなどルールを決め、なるべくコンパクトな荷物で済ませられるよう、パッケージングを工夫しましょう。
それでは、磯釣りの装備について、説明して行きます。ここでは、現地付近まで車で行き、然るべき駐車場に車を止めて、歩いて入磯し、磯をしばらく歩いてポイントまでたどり着き、釣りを行うという前提で進めさせていただきます。
磯釣りの装備で最も大切なものはフローティングベストではなく、間違いなくシューズです。磯が比較的高く、水をかぶる危険がない場所であれば、写真のようなショート丈の磯シューズで良いでしょう。紐はきつめに結び、足首をしっかり固めることが重要です。足首がしっかり固まっていると、不安定な岩の上を歩き続けても疲労しづらく、足首をひねって転倒のリスクが激減します。
磯が低く、水をかぶる可能性が高い場所ではロングブーツタイプのシューズを着用します。ショート丈の磯靴を履くときもロングブーツをです。履くときも、気を付けなければならないことは「足にジャストフィットであること」です。大きくても小さくてもいけません。「ぴったり」サイズがないときは、僅かに大きめのものを購入し、厚手のソックスで調整しましょう。ジャストフィットに調整できないと足に負担がかかり、安全性が著しく低下しますし、靴の中に隙間があると中で足がこすれて皮がむけてしまうことがあります。そうなると磯歩きどころではなくなってしまいますのでくれぐれも注意しましょう。
磯で履くシューズのソールには、大きく分けて3タイプがあります。現地の足場がどんな場所なのかによって使い分ける必要があります。ソールの選択を誤ると、安全性が損なわれるので注意しましょう。
ゴム製の靴底にステンレス製のピンが打ち込まれているタイプです。このタイプは、価格が安いというメリットがありますが、グリップ性はあまり高いとは言えません。土や砂の上、柔らかい岩であれば濡れていてもグリップは効きますが、著しく硬い岩や、濡れていて海藻が生えている岩の上では滑ってしまいます。また、鉄板の上やコンクリート上などで歩き続けるとピンが曲がってしまったり、抜け落ちたりすることもあります。
ポリエステル繊維を厚さ10mm~15mm程度に積層して固めたフェルトを底に貼りつけたもので、藻類が生えていて著しく滑りやすい岩の上でも安全に歩けるタイプのソールです。ただし耐久性が悪く、藻類が生えていない岩やコンクリート上などを歩行するとすぐにダメージを受けますので、定期的にフェルトソールの貼り替えが必要です。また、安価なフェルトソールシューズでは、フェルトの貼り替えができないものもありますので購入時には必ずソールの貼り替えができるか確認しましょう。
フェルトソールとスパイクソールを合わせたタイプのソールで、最も滑り止め効果が高く、安全性も高いタイプのソールになります。価格が高いのが難点ですが、磯釣りをするなら是非とも用意したい靴底であります。
磯歩きをするなら、必ずこの3タイプの中から現地に最も適したタイプのソールを持ったシューズを装備しましょう。
磯釣りでは、ガス膨張式のライフジャケットは使えないと思ってください。磯では切っ先が鋭い岩だらけです。運悪く転んでしまった際、ライフジャケットが岩に強くあたると簡単に穴が空いてしまい、イザという時にライフジャケットとして機能してくれません。磯では穴が空いてしまっても浮力に影響しない、ウレタンフォーム製の浮力材を仕込むタイプのフローティングベスト一択です。
磯釣りに限った話では有りませんが、紫外線対策及び水中視認のための偏光サングラスは必須アイテムです。曇天・薄暮用、晴天・日中用の最低2本必要です。曇天・薄暮用はコントラストを際立たせる効果のあるタイプを、晴天・日中用は水面の乱反射を抑える、色が濃く、可視光通過率の低いタイプを選びましょう。
帽子も釣りをするには必須アイテムです。釣り専用のツバが大きいものがおすすめです。正面から降り注ぐ日差しをツバが遮ってくれます。雨天時も、撥水加工が施されているツバが大きい帽子が便利です。
磯釣りは手袋必須です。転倒時に手でも突こうものならザックリと切ってしまうでしょう。運悪く海に転落してしまった際は、岩を掴んで這い上がらなければなりません。素手では岩をガッチリ掴んで体を支えながら這い上がることはできません。
クーラーボックスの選定には気を使う必要があります。保冷力は価格と正比例するアイテムで、ピンからキリまで様々なものが発売されています。自分の釣りのスタイルから、必要な保冷力の持続時間や容量を割り出し、それに見合った製品を持つことを心掛けます。6面に真空断熱パネルを使用した最高級のクーラーボックスは、5万円を優に超えます。これを持っていれば万能と言えないこともないですが、6面真空断熱パネルのモデルは非常に重く、磯歩きには不利になります。これらは宿泊を伴う遠征時などには心強いモデルですが、日帰り釣行には必要ありません。
私は、磯釣りはほとんどの場合、日の出から正午までの勝負なので、底面のみ真空断熱パネルを使用したクーラーボックスを愛用しています。真夏の炎天下でも、夕方の帰宅までに氷が溶け切ってしまうことは全くなく、保冷力と軽さのバランスに優れています。
磯釣りのうち、フカセ釣りをする場合にどうしても必要なコマセバッカンは、一般的に36cmサイズと40cmサイズが主流です。
その日に消費するコマセの量によってサイズを分けると効率的ではありますが、コマセバッカンは、小さいものは持たず、40cmサイズをひとつ持っていればよいでしょう。釣りが終わったあと、中身をすべて出し、海水でよく洗ったら、そのまま濡れもの、汚れものを入れる容器になります。エサ箱、ヒシャクホルダー、水汲みバケツ、汚れたタオル、ゴミなどを片っ端から入れてしまえば帰りが楽になります。
ロッドケースはスリムなものを選びましょう。ロッド本数は多くても3本までにしましょう。使わない竿は極力自宅においておくのが理想的です。自分は多いときでも磯竿3本まで(1号、1.25号、2号の3本)にしています。普段は1号、1.25号の2本しか持ち歩きません。
これに玉の柄(振り出し式5m)、とヒシャク、洗浄用の柄の長いブラシを入れています。
最後に、磯釣りの荷物を効率よくパッケージングするためのコツについて説明いたします。
まず、当日持ち込もうとする荷物をまとめます。そして、軽いものから順にバックバックの下から詰めて行きます。一見、重いものから詰めて行くほうが合理的と思うかもしれませんが、バックバックには、軽いものから順に詰めて行き、だんだん重いものを詰め、最後に一番出し入れ頻度の高いものが最上部に来るようパッキングすると、効率的で、長時間担いでも持ち重りしません。
びっくりするほど安定します。壊れやすいものは当然下に詰めてはいけませんが、原則、軽いものから順に詰めます。短距離を歩く場合はあまり気にすること有りませんが、磯を長い時間歩かなければならない場合はパッキングの順番で疲労度が全然変わります。
針やハリス、ラインカッターやガン玉など、使用頻度がものすごく高い消耗品と、万が一のトラブルが起きたときの応急処置用の瞬間接着剤が一緒のケースに入っていたり、マゼラーとフィッシュトレイラーなど、使用シーンが全く違うものを一緒にパッケージングすることは好ましくありません。
また、せっかくのチャンスタイムに、バラバラに収納された消耗品をそれぞれピックアップするために、あっちのプラケース、コッチの小物入れと、無秩序にアクセスしなければならない状況は時間の無駄です。
そのため、使用頻度ごとにパーツを小分けにしておくと手返しよく釣りが楽しめます。同じカテゴリーでも、クロダイ狙いのフカセ釣りをやっているのに、小物入れにチヌ針と流線針を一緒に入れておくなど、針だけたくさんのバリエーションを揃えていても意味がありません。磯釣りをするなら、それ以外の針は思い切って自宅においてくるなどの取捨選択も必要です。
ただでさえ荷物が沢山必要で、労力が要る磯フカセ釣りを一旦始めてしまったら、途中で別の釣りに臨機応変に変わり身を図るのは至難の業です。どう転んでも釣りが継続できるよう、あれもこれもと考える気持ちはわからなくもないですが、磯釣りで大荷物は本当にキツいのでオススメできません。
いかがでしたでしょうか? 地磯でのフカセ釣りは、ただでさえ大荷物で足場の悪い磯を歩かなければならず、ポイントに着いてからも、コマセを作ったり仕掛けを作ったり、スタートフィッシングまで非常に手間がかかるジャンルなので、敬遠する人も少なくありません。
しかし、フカセ釣りにはそんな苦労を吹き飛ばす面白さがあるということを、声を大にして言いたいのであります!
安全に、快適に、地磯フカセ釣りを少しでも楽なものにするため、携行品の断捨離と、効率的なパッケージングを心掛けていただければ幸いです。
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