フカセ釣りに限った話ではないですが、釣りの理論、メソッドは日進月歩です。昨日の最新メソッドが今日は陳腐化してしまっているというと大げさですが、毎年のように新しい理論、新しい釣り方、新しいタックルが発表されています。それらの情報は、現代はネットの長所であり、短所でもあるのですが、情報が一瞬で世界中の人間に共有されます。たとえそれが正しい情報ではなかったとしても。
ネットの情報は玉石混交、有益な情報もたくさん手に入れることができますが、基本は有象無象。誰が書いたかわからない間違った情報や、なりすましやステルスマーケット、フィッシング詐欺に代表される質の悪い情報があふれ、さながら無法地帯の様相を呈しています。
ネットは、情報の量、情報の速達性については他のメディアを圧倒していることは間違いありませんが、情報の正確性、信憑性、安全性については、情報を得ようとしている者のリテラシーの高さ低さに依存します。つまり、情報を取捨選択し、安全で有益な情報のみを抽出して自身に取り込むことができるか否かということに左右されてしまうという危険性があるのです。
そういう点を考慮すると、情報の速達性はネットとは比較にならないくらい劣りますが、信憑性、安全性に長ける、MOOK(ムック・雑誌:Magazine と 書籍:bOOKの中間の意味、サイズは雑誌だがコンテンツは書籍の性格が強い出版物のこと)はおすすめです。私は年に1~2冊ほど購入し、情報のアップデートをしています。
フカセ釣りをメインでやっている人って、釣り歴が長く、いろんな釣りを経験してきて、知識や技術もそれなりに蓄積した人が最後にたどり着き、ライフワークとして残りの人生を捧げる釣り・・・というイメージはありませんか?
フカセ釣りをメインでやってる人って、百戦錬磨で、こだわりが強く、ストイックな求道者タイプ、近寄り難い雰囲気を持っている・・・というイメージはありませんか?
もちろん、そういう方もいるにはいると思います。しかしそういったイメージ通りの人って、私が見る限り、そんなにたくさんはいません。フカセ師に対して多くの人が抱く、そういったイメージこそが「固定観念」というものです。
フカセ釣りにおいても、様々な固定観念に邪魔をされ、最新メソッドとは異なる古い釣法でひたすら粘っているアングラーもいるかもしれません。例を挙げてみましょう。
まずはフカセ釣りの「タナ」について。フカセ釣りに限らず、また、エサ釣りかルアー釣りかにも限らない話ではありますが、ターゲットの泳層、すなわち「タナ」にエサを送り込むことが何よりも重要になってきます。
一般的に、地磯フカセ釣りの二大ターゲットであるクロダイとメジナ狙いに関して言えば、クロダイは主に底層に、メジナは中層から水深1ヒロ(1.5m程度)くらいまでを重点的に攻めろというのが定説です。
この考え方は基本は正しいと言えます。しかし、このセオリーに固執していては、シブい状況を打破することは難しいでしょう。なぜなら、このセオリーには「水温」、「濁り」、「波(風)」、「天気」といった要素が反映されていないからです。
クロダイにもメジナにもそれぞれ適水温があります。だいたいどちらも15℃〜23℃前後がベストなのですが、クロダイの方が適応温度が広く、13℃〜28℃くらいまで活発に捕食活動を行います。7℃程度まで何とか釣りになるようです。また、クロダイは濁った水を好むため、曇っていて、河川からの濁流の流入などで、海水に濁りが入っている日はマヅメ時など関係なく高活性が続くことがあります。海面から背びれを出しながらエサを漁るほど表層に浮いて来ることもあります。
メジナは15℃〜25℃くらいが活発な捕食活動の水温とされています。12℃を下回るとほとんど捕食せず、1桁台になるとほぼ活動が止まり、ボトム付近でじっとしているとされています。こういう日にメジナを狙う際はエサをボトムまて深く沈ませ、じっとしているメジナの鼻先に小さなエサをちらつかせないと口を使ってくれません。
高水温時でも、上空に天敵となる猛禽類がたくさんいる場合や、表層で大型青物がベイトを追っているようなときは、メジナが全く浮いてこないこともあります。
なので、一概に「クロダイは底、メジナは中層以上」とは言い切れないのであります。
フカセ釣りの世界では、古くから「魚の上唇の中心に針を掛けるのが美しい」と言われてきました。これが「正しいフッキングである」とまで言われていました。
せっかく釣り上げても、針を飲まれてしまっていると、それは「釣った」のではなく「釣れた」というんだよなんて嫌味を言われたものです。そのため、ウキのわずかな動きに全神経を集中させ、ウキが動いた瞬間にアワセを入れ、上唇にガッツリ針掛かりさせることを常に目指していたものです。私自身も針を飲まれてしまうのは「美しくない」と長いこと思っていました。
しかし、特に冬の人気ターゲットである寒グレは、低活性時は口をあまり使わず、つまり、口を大きく開けて勢いよく餌を吸い込む行動をしないため、もともとフッキングが極端に難しくなっているのです。
そのため、魚が大きく口を開けなくても餌を吸い込めるように、針や餌を小さくし、さらに、魚が餌を吸い込んだ際に違和感を感じて吐き出さないように、ハリスやメインラインも細くして、結果として針を飲ませて喉の奥に確実にフッキングさせようという考え方が広がっています。
こういう言い方には語弊があるかもしれませんが、かつては「大潮は大チャンス」、「中潮はチャンス」、「小潮・若潮は望み薄」、「長潮は絶望的」などと言われたものです。ある意味正しく、フカセ釣りに潮回りが重要であるということは紛れもない事実なのですが、私の経験則では、「必ずしもそうではない」と思っています。正確に言うと「潮回りは釣果に影響を及ぼす膨大な因子の中のたったひとつの事象に過ぎない」ということです。
潮回りは、月と地球の位置関係に起因する、互いの引力が海面及ぼす作用の大きさのことで、あくまでもその日の最大潮位と最小潮位の差の大小を言っているだけで、大潮だから潮の動きが良く魚が高活性になるとか、小潮だから潮の流れが悪いため活性が低いということではありません。
そのため、「新月の大潮だから期待して鼻息荒く現地入りしたのに丸ボウズを食らった」とか、「長潮で全然期待していなかったのに入れ食いだった」といった話はいくらでもあります。
フカセ釣りにおける爆釣とは、天気、水温、潮の流れ(潮回りのことではありません。潮が流れる方向、スピードのことです。コマセワークに大きな影響を及ぼします)、海水の状況(濁り/サラシ)の状況、周囲に天敵がいない状況など、様々な要素がすべてが釣り師側にとって有利な状況に傾いたときで、かつ、釣り師側がその状況下で適切な仕掛けに適切な餌をつけ、適切な場所に流し、適切なタナにできたときのみ起こります。
そのため、フカセ釣り師は、「現在のあらゆる状況を五感を研ぎ澄ませて自身に取り込み」、「頭の中で現在の水中環境がどうなっているのか仮説を立て」、「その仮説に基づいたベストな仕掛けを作り」、「答え合わせのために釣りをして」、「答えが合っていないと思ったら状況判断のフェイズに戻る」といった、PDCA(Plan・Do・Check・Action)のサイクルを回し、常に目まぐるしく変わる状況の中、その一瞬ごとの最適解を導かなければなりません。
フカセ釣りでいつでも一定の結果を残す人は、こういった「状況判断に必要な情報のインプット量が多く」、「仮説構築のための情報処理能力が高く」、「立てた仮設に対し戦略を決定するための情報のアウトプットが的確で」、「ダメだと思ったら素早く原因を求めて仕掛けや攻略法を次々と変える臨機応変さ」を持ち合わせています。
太陽が昇る前後、沈む前後の、いわゆる「朝まづめ」、「夕まづめ」は釣りの絶好のチャンスタイムと言われており、アングラーは挙ってまづめ時を狙います。比較的光量が少なく、魚の警戒心が緩んでいる時間帯であり、朝まづめの短時間、夕まづめ時の短時間のみ釣りを行うという人も大勢います。まづめ時がチャンスタイムであるということに疑う余地はありません。しかし、フカセ釣りにおいては、私はそんなに重要な時間帯であるとは考えていません。
まづめ時が有利な理由は、昼行性の魚は夜明けとともに活動をはじめ、同じく夜明けとともに活動を開始する昼行性のプランクトンや甲殻類などを、完全に夜が明けきる前に充分に摂餌をしようと活発に活動するためです(光量が少ない時間帯の方が青物などの天敵に見つかりにくいため)。同様に、日没直前も、餌となる生き物が活動をやめてしまう直前の薄暗い時間帯が、天敵に見つかりにくく、捕食がやりやすいということで、活性が高くなります。まづめ時のキーワードは「餌となるプランクトンなどの活性と低光量がもたらす水中の安全性」です。
しかし、フカセ釣りの場合は、他の釣りとは圧倒的に異なる点があります。それは「コマセを使う」ということです。フカセ釣りの著名なポイントでは、極端な話、ポイント周辺の魚は釣り師が撒くコマセが主食であると言われるほど、毎日大量のコマセが撒かれます。配合コマセは魚の嗜好性が高く、海面に投入されると周辺に濁りをもたらしながらゆっくりと沈んで行きます。この、コマセによる濁りは、魚たちを天敵からカムフラージュする効果があり、濁りの中ではターゲットの警戒心が若干緩むため、日中でも一心不乱にコマセを捕食してきます。
魚たちは釣り師がコマセを撒くことを学習して知っており、わざわざ餌を求めてまづめ時に泳ぎ回らなくても、待っていれば釣り師が撒く高栄養価のコマセを労せず捕食できるのです。そのため、釣り人がコマセを撒き始めてしばらくしてから徐々に本命魚が集まって来て、日中にゴールデンタイムが訪れるということが少なくありません。
こういう、魚の主食が釣り師が撒くコマセになっているような地域では、通年美味しくいただける魚が多いという特徴があります。メジナやブダイ、タカノハダイなど、季節により主食が変わると言われている魚は、通常は特定の時期に著しく身が磯臭くなる特徴があるのですが、私がメインで釣りを行っている神奈川県・江ノ島の磯で釣れるこれらの魚たちはコマセを常食しているため、身が磯臭くなることはなく通年美味しくいただける個体が多いです。
フカセ釣りに限った話ではないと思いますが、いわゆる「釣りが上手い人」にはある特徴があります。それは、「地頭の良い人が多い」ということです。この、「地頭が良い」ということは、学校の成績が良いとか、そういう意味での「頭の良さ」のことではありません。
自分で情報を集め、集めた情報を体系的に整理して取捨選択ができ、自分で解決案を構築し、実行ができるという意味での「頭の良さ」ということです。
現場で出会った人に話しかけてみると、こちらが振る会話の内容に合わせて的確な返答をしてくれる人がいます。こちらがどんなネタを振っても内容がいつも的確で瞬発力を持っていてよどみなく応酬してくれる人は「この人は頭が良い人だな」と思います。
こういう人は、釣りキャリアの長短はあまり関係なく、日頃から釣りのみならずただ街を歩くだけでも、目、耳、鼻、口、肌を介して飛び込んでくる様々な情報にアンテナを張り、常に好奇心を持ってキョロキョロしながら歩いているような人なんだろうと思います。
知らず知らずのうちに膨大な情報を自らに取り込み蓄積され、判断が求められる状況になった時に、意志行動決定に必要な適切な情報を瞬時に脳内の引き出しから取り出し、取り出した情報を組み立てて最適な決断を下し実行することができる人であり、釣り名人になる素質を十分に備えていると思います。当然、釣り以外のアクティビティもそつなくこなすことができるはずです。
いかがでしたでしょうか? 釣りの技術に完成形は存在しません。現在においても、毎日のように新しい理論やメソッド、それを具現化するため、最新の理論に基づいて設計されたタックルや、未知の新しい材料が発表されています。それらは、古の先人たちが釣りを始めた時代から脈々と知見が蓄積され、その蓄積された知見の上に新しい発見が積み重なり、また新しい技術が生まれ、これまで釣れないと思われていた魚が手軽に釣れるようになる。そしてまた知見が蓄積され、新しい理論が生まれる・・・。これの繰り返しです。
釣りの歴史は道具の歴史です。その前段階に地仮説に基づく理論があります。温故知新の心を大切にしつつ、頭を柔らかくして、新しい理論やタックルに関する情報を自分の中に取り入れ、蓄積して行きましょう。書籍でもいいですし、釣具店でなじみの店員さんから情報を仕入れるのも大切です。フィッシングショーに行くのもとても良いことだと思います。生涯、ブラッシュアップする気持ちを忘れずに、釣りを楽しんでいきましょう。私も斯くありたいと思っております!
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